はじめに:値上げ後、屋台の売上が約2倍になった
小さなビジネスを始めるとき、価格をいくらに設定すればよいのかは、悩ましい問題の一つです。
高くすれば、お客さんが買ってくれないかもしれない。反対に、安くすれば買ってもらいやすくなるかもしれません。
しかし、安く売ることばかり考えていると、商品が売れても利益が残らず、商売を続けられなくなる可能性があります。
では、価格はどのように決めればよいのでしょうか。
私はフィリピンのドゥマゲッティで、毎週開催されるサンデーマーケットに屋台を出しています。すでに4年以上続けてきましたが、最近、価格設定について改めて考えさせられる出来事がありました。
メニューを見直し、平均して約20%値上げしたところ、売上は落ちるどころか、平均で約2倍になりました。
もちろん、値上げだけが理由だとは断定できません。商品構成やメニュー表の変更など、複数の要素が関係している可能性があります。
それでも、この経験から学べることは多いと感じています。
1. 安く仕入れることと、利益を出すことは違う
海外で商売を始めようとすると、日本より安く仕入れられる商品や、日本より低い費用で提供できるサービスに目が向きやすくなります。
私自身、フィリピンで仕事をつくろうとしたとき、現地の安い材料や人件費を活用すれば、日本で販売できる商品を有利につくれるのではないかと考えたことがあります。
しかし、仕入れ値が安いからといって、必ずしも商売がうまくいくわけではありません。
品質に問題があれば、修理や交換、返品などの対応が必要になるかもしれません。販売するまでに時間がかかれば、その間の保管費用や人件費も発生します。輸送が必要なら、送料や関税なども考えなければなりません。
安く仕入れられたとしても、販売に必要な費用をすべて計算した結果、利益がほとんど残らないこともあります。
価格を考えるときには、まず「いくらで仕入れられるか」だけでなく、「お客さんに届けて販売するまでに、全部でいくらかかるのか」を把握することが必要です。海外で小さな商売を始める際の準備や考え方については、海外で小さなビジネスを始めるでも紹介しています。
そして、もう一つ大切なのが、自分の商品を安くすることだけが、お客さんに選んでもらう方法ではないという視点です。
2. 4年以上続けてきたサンデーマーケットでの商売
私たちはドゥマゲッティのサンデーマーケットに、毎週屋台を出しています。気がつけば、もう4年以上になります。
人が集まり、会場全体に活気があります。さまざまな人が行き交うイベントの雰囲気そのものが面白く、それが続けてきた理由の一つでもあります。
しかし、楽しさだけで続けてきたわけではありません。実際に、売上が比較的安定していたことも大きいです。
大雨などの悪条件がなければ、早朝から昼前までの営業で、1日およそ8,000ペソの売上がありました。
これまでラーメン、餃子、お好み焼きなどを販売してきました。
運営は、スタッフ1名と妻、そして私の合計3名です。会場の家賃は1日500ペソで、食材の原価率はおおむね30%を目安にしていました。
こうした条件で毎週営業を続けてきた経験が、今回のメニュー変更を考える土台になりました。
3. 妻の提案で始めた丼ものが、メニューを変えるきっかけに
最近、妻の提案で、ライス付きの丼ものメニューを始めてみました。
これまで販売してきたラーメンや餃子、お好み焼きとは違い、ご飯とおかずを組み合わせたメニューです。
実際に販売してみると、これが予想以上に好評でした。
そこで、メニュー全体を見直すことにしました。
まず、これまでの価格を平均して約20%値上げしました。さらに、メニュー表を大きくし、内容を書き換えて、お客さんに提示する形も変えました。
値上げをすれば、売上が落ちるかもしれない。そう考えるのが自然でしょう。
しかし、結果は予想と違いました。
値上げ後、売上は落ちるどころか上昇しました。これまで平均約8,000ペソだった1日の売上が、平均で約16,000ペソになり、多い日には20,000ペソを超えることも出てきました。
この状態は、現時点で4週間続いています。
もちろん、まだ4週間の結果であり、この先も同じ売上が続くと決まったわけではありません。それでも、価格を上げた後に売上が約2倍になったことには、私自身も驚きました。
4. 値上げ後に売上が伸びた背景を考える
今回の経験で興味深いのは、価格だけを変えたわけではないということです。
丼ものという新しい商品構成を取り入れ、メニュー表の見せ方も変えました。
つまり今回は、価格だけでなく、商品構成とお客さんへの伝え方も同時に見直したことになります。
そのため、売上増加の理由を一つに絞ることはできません。
考えられるのは、いくつかの要素が重なった可能性です。
① お客さんが選びやすいメニューになった
丼ものは、ご飯とおかずが組み合わさっているため、食事としての内容がイメージしやすい商品です。
お客さんがその場で食事を選ぶとき、何を食べられるのか、どれくらい満足できそうかが分かりやすいことは、購入の判断に影響する可能性があります。
ただし、今回の売上増加が丼ものだけによるものなのか、ほかのメニューにも波及したのかは、注文数などを確認しなければ分かりません。
② メニュー表の見せ方が変わった
メニュー表を大きくし、内容を書き換えたことも、今回の変更点の一つです。
屋台では、お客さんが短い時間で商品を選ぶことも多くあります。メニューが見やすくなり、商品内容が伝わりやすくなれば、注文につながる可能性があります。
商品そのものが同じでも、見せ方によってお客さんの受け取り方が変わることがあります。
③ サンデーマーケットという会場の力
もう一つ、改めて感じたのが、イベント会場ならではの集客力です。
サンデーマーケットには、買い物や食事を楽しむために人が集まります。屋台の前を通る人も多く、普段の店舗営業とは異なる販売環境があります。
どれだけ魅力的な商品を用意しても、そもそもお客さんが来なければ売上にはつながりません。
その点、集客力のある会場に出店できることは、大きな強みになります。
ただし、会場に人が多いだけで必ず売れるわけではありません。商品の内容や価格、メニューの見せ方などが、お客さんの購入につながって初めて売上になります。
今回の結果は、こうした要素が組み合わさったものなのかもしれません。

5. 売上が約2倍でも、利益が同じ割合で増えるとは限らない
ここで、もう一つ冷静に考えておきたいことがあります。
売上が2倍になったことは大きな変化ですが、利益も同じように2倍になったとは限りません。
私たちの屋台では、食材の原価率をおおむね30%としてきました。
仮に、この原価率が値上げ後も同じで、売上が8,000ペソから16,000ペソになったとします。
単純計算では、次のようになります。
| 項目 | 変更前 | 変更後 |
|---|---|---|
| 1日の売上 | ₱8,000 | ₱16,000 |
| 食材原価(30%と仮定) | ₱2,400 | ₱4,800 |
| 食材原価を差し引いた残額 | ₱5,600 | ₱11,200 |
| 会場の家賃 | ₱500 | ₱500 |
| 家賃を差し引いた残額 | ₱5,100 | ₱10,700 |
この表は、食材原価率が変更前後とも30%であると仮定し、会場の家賃だけを差し引いた簡易計算です。
人件費、交通費、燃料費、消耗品費、設備費などは含んでいないため、最終的な利益を示すものではありません。
それでも、売上が増え、原価率が大きく変わらなければ、ほかの費用を差し引く前の残額も増えることが分かります。
一方、販売量が増えれば、仕入れや仕込みの手間が増えるかもしれません。追加の人員が必要になる可能性もあります。食材の廃棄や売れ残りが増えれば、原価率が変わることもあります。
したがって、売上だけでなく、原価率やほかの経費、実際に残る利益も確認していきたいと思います。売上と利益、手元に残る現金の違いについては、小さなビジネスの資金繰りでも詳しく考えています。
6. 今の売上が、ずっと続くとは限らない
今回の結果はうれしい変化です。しかし、私には一つ気になることもあります。
この状態が、今後も続くのだろうかということです。
サンデーマーケットの集客力、丼ものの人気、メニューの見せ方など、今回の売上増加には複数の要素が関係している可能性があります。
しかし、お客さんの好みや会場の状況は変わることもあります。
4週間続いたからといって、長期的に安定したと判断するにはまだ早いでしょう。
これまでの経験から考えても、今のやり方がいつまでも通用するとは限りません。
だからこそ、今回の結果を喜びながらも、販売数や原価率を記録し、何が売上に影響しているのかを少しずつ確かめていく必要があります。
そして、現状を維持することだけを目標にするのではなく、次の改善や新しいチャレンジも考えていきたいと思います。
商売を続けることと、同じことだけを繰り返すことは違います。
うまくいっているときにも、その理由を考え、次の変化に備えることが重要なのだと思います。
7. 価格は、安さではなく顧客が感じる価値から考える
今回の経験から、価格設定について改めて考えさせられました。
以前より高く売れば、お客さんが離れるとは限りません。商品構成を見直し、魅力が伝わるように工夫すれば、値上げ後も購入してもらえる可能性があります。
ただし、値上げすれば必ず売上が増えるわけでもありません。今回の結果を、そのまま別の商品や別の場所に当てはめることはできません。
大切なのは、価格だけを独立して考えないことです。
お客さんは何を求めているのか。どのような商品なら選びやすいのか。商品の魅力は伝わっているのか。販売する場所には、どのような強みがあるのか。そして、売れた結果として、必要な利益が残っているのか。顧客が何に価値を感じるのかを考える視点は、小さなビジネスにおける顧客価値にもつながります。
こうしたことを観察し、実際に試し、その結果から次の判断をすることが大切です。
価格設定とは、安く売る方法を探すことでも、高く売ること自体を目指すことでもありません。
お客さんが価値を感じる商品を、事業を続けられる条件で提供する方法を探すことなのだと思います。
おわりに:価格を見直し、結果を確かめながら改善する
サンデーマーケットでの今回の変化が、この先も続くのかはまだ分かりません。
しかし、4年以上続けてきた屋台でも、商品や価格、見せ方を変えることで、これまでとは違う結果が生まれることがあります。
今回の経験から、価格を安くすることだけが、お客さんに選んでもらう方法ではないと改めて感じました。
商品そのものの魅力を見直し、顧客に伝わる形に整え、適切な価格で提供する。その結果を売上だけでなく、原価や経費、利益まで確認することが必要です。
うまくいった理由を考え、数字を確認し、必要ならまた変えてみる。
小さなビジネスを続けるうえでは、今の成功を大切にしながらも、それを最終的な答えにしない姿勢が必要なのだと思います。
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