人に任せる仕事と自分で続ける仕事|フィリピンで小さな事業を運営して学んだこと

フィリピンの屋外マーケットの屋台で、経営者がスタッフ2人に仕事の進め方を説明している風景。 仕事と小さなビジネス

はじめに:仕事は任せても、経営者の責任は手放さない

小さなビジネスを始めると、最初は何でも自分でやろうとします。

商品の仕入れや製造、販売、お客さんへの対応、売上の管理まで、事業が小さいうちは自分で動いたほうが早く、費用も抑えられることが多いからです。

しかし、仕事が増えてくると、すべてを自分で続けることには限界があります。スタッフに作業を任せなければ、事業を続けること自体が難しくなる場面も出てきます。

では、どこまで人に任せればよいのでしょうか。

私はフィリピンで小さな事業を運営し、これまで何人ものスタッフと一緒に働いてきました。その経験から、今も大切にしている考え方があります。海外で小さなビジネスを始めるときにも、早い段階で考えておきたいことです。

それは、日々の作業は人に任せても、最終的な判断と事業全体への責任は自分で持つということです。仕事の改善まで、何も考えずに人任せにはしません。

これは、スタッフを信用しないという意味ではありません。自分が事業を運営する以上、どこまでを人に任せ、どこからを自分の責任とするのかを、最初から明確にしておく必要があるということです。

1. 作業を任せるなら、範囲と完了基準を明確にする

小さな事業でも、スタッフに任せられる仕事はたくさんあります。

材料を運ぶ、決められた数量の商品を準備する、清掃する、調理を補助する。作業の内容や手順が明確であれば、こうした仕事はスタッフに任せやすくなります。

ただし、何を、どれだけ、いつまでに行うのか。その基準まで曖昧にしてはいけません。

たとえば、「明日の営業準備をしておいて」とだけ伝えても、どこまで準備すれば完了なのかは、人によって受け取り方が違うかもしれません。

必要な食材は何か、それぞれ何人分を用意するのか、道具はどこまで準備するのか。作業の範囲と数量を具体的に決めておけば、結果を確認しやすくなります。

作業が予定どおりに終わらなかった場合の報告方法や、その後の対応についても、あらかじめルールを決めておく必要があります。

私が基本にしているのは、決められた作業を担当してもらうことと、仕事全体の進め方や判断まで委ねることを、別の問題として考えることです。

スタッフに作業を担当してもらうことはできます。しかし、何を実行するのかを決め、必要な条件を整え、結果を確認することまで手放してしまうと、経営者として必要な管理ができなくなります。

2. 改善や工夫は、経営者が方向を示す

私が特に注意しているのは、仕事の改善や工夫が必要な部分です。

職場によって違いはありますが、日本では、決められた作業を行うだけでなく、もっと効率よくできないか、無駄を減らせないか、次はどうすればよくなるか、と自分で考える姿勢が期待されることがあります。

もちろん、日本でも人によって仕事への姿勢は異なりますし、フィリピンにも自分から工夫し、積極的に改善する人はいます。

一方、私がフィリピンでこれまで一緒に働いてきたスタッフとの経験では、こちらが期待するほど、自発的に仕事のやり方を見直したり、空いた時間を使って改善に取り組んだりする姿は、必ずしも多くありませんでした。

私が感じているのは、能力の優劣というより、仕事に対して何が求められていると考えるか、また、どのような働き方に慣れているかという違いです。

こちらは改善まで期待していても、相手は「指示された仕事を終えること」が自分の役割だと理解しているのかもしれません。作業が終わって時間が余ったとき、次の仕事を探すのではなく、休んで過ごすこともあります。

本人に悪気があるとは限りません。こちらが期待している働き方と、相手が仕事として求められていると理解している範囲が違う可能性もあります。

その違いを理解せず、自分の慣れた働き方を前提に「もっと自分で考えてほしい」「時間が余ったら次の仕事を探してほしい」と期待していると、思いどおりにならないことにストレスを感じ続けることになります。

だから私は、改善が必要な仕事や工夫が必要な部分については、最初からスタッフに委ねきらないことを基本にしています。まず経営者が改善の方向を考え、必要な作業を具体的に伝えます。

何を改善するのか、どこを変えるのか、どのような結果を目指すのか。そうした判断は自分で行い、必要な作業を具体的に指示します。

これは、スタッフに考える機会を与えないという意味ではありません。改善を提案してくれる人がいれば、その意見を聞き、採用することもできます。

スタッフが自発的に改善してくれることを前提に事業を設計するのではなく、改善の提案がなくても日々の運営が滞らない仕組みをつくっておく。そのうえで、よい提案があれば積極的に取り入れる。

私にとっては、その順序が重要なのです。

3. 期待する行動は、言葉とルールで伝える

人と一緒に仕事をするとき、相手に期待すること自体は悪いことではありません。

ただし、自分が当然だと思っていることが、相手にとっても当然だとは限りません。期待している行動があるなら、相手も理解しているはずだと考えず、具体的に伝える必要があります。

たとえば、作業が早く終わったら次の仕事を探す。仕事に無駄があれば自分から改善する。問題が起きる前に気づき、報告する。

こうした姿勢を当然の前提にしていると、それが見られなかったときに「なぜ自分で考えないのか」と不満を抱きやすくなります。

しかし、期待するだけでは仕事の進め方は変わりません。

必要なのは、どのような行動を求めているのかを具体的に伝え、それを仕事のルールや手順に落とし込むことです。

たとえば、次のようなルールを決めておきます。

  • 作業が終わったら責任者に報告する
  • 次の作業に進む前に確認を受ける
  • 問題が発生したら、自分で判断して変更する前に相談する

こうしたルールを決めておけば、個人の習慣や性格だけに頼らず、仕事の進め方をそろえやすくなります。

それでも、期待したとおりに動いてもらえるとは限りません。その場合は、指示の方法や作業量、担当する人の適性などを見直す必要があります。

私は、相手が自分と同じ考え方で動いてくれることを前提にするよりも、実際の仕事ぶりを見ながら、必要な指示や管理を行うほうが現実的だと考えています。

期待しすぎないことは、相手の可能性を否定することではありません。期待する内容を具体的に伝え、実際の仕事ぶりを見ながら任せる範囲を調整することです。自分の期待と現実の違いによって、事業の運営が不安定にならないようにするためでもあります。

フィリピンの屋外マーケットの屋台で、経営者がスタッフ2人に仕事の進め方を説明している風景。

4. 信頼することと、仕事の結果を確認することは両立する

仕事を任せるとき、信頼関係は大切です。

しかし、信頼していることと、確認しなくてよいことは違います。

売上や在庫、仕入れ、作業の完了状況などは、誰かを疑うためではなく、事業の状態を正しく把握するために確認する必要があります。

たとえば飲食店であれば、仕入れた食材の数量、使用した数量、残った在庫を記録します。売上と支出も記録し、数字が合わない場合には原因を確認します。こうした数字の管理は、小さなビジネスの資金繰りを把握するうえでも欠かせません。

こうした仕組みがあれば、問題が起きたときに、誰かの記憶や説明だけに頼らず状況を把握できます。

また、作業の基準が明確になっていれば、スタッフにとっても、何をすれば仕事が完了するのかが分かりやすくなります。

確認することは、必ずしも不信感の表れではありません。任せた仕事が予定どおりに進んでいるかを把握し、問題があれば早めに対応するための管理です。

人を信頼することと、仕事の結果を確認することは両立できます。

5. 最終的な判断と事業全体への責任は経営者が持つ

私が最も重要だと考えているのは、最終的な決定と責任を自分で持つことです。

スタッフが作業を担当していても、何をさせるのかを決めたのは経営者です。作業量や期限、必要な条件を決め、どのような結果を目指すのかを判断するのも経営者の役割です。

もし仕事が予定どおりに進まなかったら、まず何が起きたのかを確認する必要があります。

指示が曖昧だったのか。作業量が多すぎたのか。必要な道具や材料が不足していたのか。それとも、決めたルールが守られなかったのか。

原因によって、次に取るべき対応は違います。

指示に問題があれば、伝え方を見直す。作業量に問題があれば、計画を修正する。必要な道具が足りなければ、準備の仕組みを変える。一方、明確なルールが繰り返し守られないのであれば、担当や責任の範囲を見直す必要もあります。

大切なのは、問題が起きたときに、ただスタッフを責めたり、反対にすべてを自分の責任として抱え込んだりしないことです。まず事実を確認し、仕組みや指示に問題がなかったか、本人が担うべき役割を果たしたかを分けて考えます。

仕事を任せた側として、どのような指示や仕組みが必要だったのかを検証する。そのうえで、本人が果たすべき責任についても明確にします。

最終的な判断を自分で行うということは、すべての失敗を一人で背負うという意味ではありません。

自分が決めるべきことを決め、必要な管理を行い、結果に責任を持つということです。

6. 自分がいなくても日々の仕事が進む仕組みをつくる

事業を運営していると、自分がいなくても仕事が進む状態をつくることが理想だと考えることがあります。

確かに、毎回自分が指示を出さなければ何も進まないのであれば、事業の規模を広げることは難しくなります。

しかし、すべての判断をスタッフに任せればよいというわけでもありません。

作業の手順や数量、完了の基準を決め、スタッフがその範囲内で仕事を進められるようにします。一方で、価格の変更、費用のかかる改善、新しい事業への投資など、事業全体に影響する判断は、経営者が責任を持って行います。海外で事業を運営する際には、こうした日々の管理に加えて、フィリピンで事業を行う際に考えておきたいリスクも把握しておくことが大切です。

つまり、目指すべきなのは、自分が何も関与しなくてもすべてが決まる状態ではありません。

日々の作業は自分が逐一指示しなくても進むようにしながら、重要な判断と改善は経営者が責任を持って行える状態をつくることなのです。

そのためには、仕事を手順化し、記録を残し、必要な報告が上がる仕組みを整えることが欠かせません。

人に任せられる仕事を増やすことと、経営者としての責任を手放さないこと。この2つは、矛盾するものではありません。

まとめ:任せる範囲を決め、経営者の責任は手放さない

フィリピンでこれまで何人ものスタッフと働いてきた経験から、私は、事業の運営を個人の善意や自発性だけに頼らないことの重要性を学びました。

もちろん、これは私が一緒に働いてきた人たちについての経験であり、フィリピンで働くすべての人に当てはまる話ではありません。仕事への姿勢や得意なことは人によって異なり、環境や役割によっても変わります。

だからこそ、作業の範囲や手順、数量、期限、完了の基準を明確にし、必要な記録と報告の仕組みを整えておくことが大切です。

作業は具体的に指示する。数量や期限を決める。完了の基準を明確にする。必要な記録を残す。問題が起きたときの対応方法を決めておく。そして、事業全体に関わる判断や改善の方向は、自分で決める。

こうした基本を徹底することで、相手が自分と同じ考え方を持っているかどうかに左右されにくい運営を目指せます。

人を信頼し、一緒に働くことは大切です。しかし、信頼だけで事業を運営することはできません。人に任せるためには、任せる側が仕事の仕組みと確認方法を整える必要があります。

作業を任せることはできます。日々の仕事を仕組み化することもできます。

しかし、事業をどう動かし、何を改善し、最終的にどのような結果を引き受けるのか。その判断と責任まで人任せにしてはいけません。

小さなビジネスを長く続けるためには、人に任せる技術と、経営者として持ち続けるべき判断・責任の両方が必要なのだと思います。

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