- はじめに:挑戦する情熱だけでは、仕事を続けられない
- 1.日本で身につけた成功モデルが、海外でも通用するとは限らない
- 2.仕事をつくるには、いくつもの力が必要になる
- 3.売上をつくることと、事業を続けることは違う
- 4.人に任せることと、自分で判断すること
- 5.自分一人では見えないものがある
- 6.エンジンだけでは、荒野を走れない
- 7.小さく始め、現実から学ぶ
- 8.小さな仕事をつくるための9つのテーマ
- 1.海外で仕事をつくろうと思ったとき、最初に考えるべきことは何か
- 2.自分ができることは、誰かがお金を払ってでも必要とすることなのか
- 3.小さなビジネスは、どこまでお金をかけずに始められるのか
- 4.仕事の依頼はなぜ来るのか|顧客がサービスを選ぶ理由を考える
- 5.売上があってもお金が残らない|フィリピンの小さな商売から考える利益と資金繰り
- 6.価格はどう決めるのか|安さだけに頼らない仕事のつくり方
- 7.人に任せる仕事と自分で続ける仕事|フィリピンで小さな事業を運営して学んだこと
- 8.うまくいかない仕事をどう見直すか|日本の正しさが通用しない場所で学んだこと
- 9.フィリピンで事業を始める前に知っておきたい外的リスク|立地・行政・名義の落とし穴
- おわりに:挑戦することと、現実を受け入れること
はじめに:挑戦する情熱だけでは、仕事を続けられない
新しい仕事や事業を始めるとき、必要なのは何だろうか。
アイデア、資金、経験、人脈。どれも大切だ。しかし、私自身の経験を振り返ると、最初に必要なのは、何かを始めようとする情熱だったと思う。
自分の力で仕事をつくりたい。事業を立ち上げて収入を得たい。今より豊かな生活を実現したい。
こうした思いがなければ、人はなかなか新しい一歩を踏み出せない。
しかし、情熱だけでは仕事を続けられなかった。
私は日本で事業を経験し、自分なりの成功パターンを身につけてきたつもりだった。その方法をフィリピンでも実践しようとしたが、思うようにはいかなかった。
フィリピンで取り組んだ二つの事業では、合計で150万ペソを大きく超える損失を経験した。
金銭的な損失だけではない。自分の判断や常識を見直すきっかけにもなった。
今になって思うのは、新しい仕事をつくることは、自動車を走らせることに似ているということだ。
情熱はエンジンである。しかし、道が変われば、必要な運転技術も変わる。
どれだけ強いエンジンを持っていても、走る環境に合った操縦技術がなければ、目的地にたどり着くことはできない。
このカテゴリーでは、私自身のフィリピンでの事業経験をもとに、海外で小さく仕事をつくり、続けていくために必要なことを考えていきたい。
1.日本で身につけた成功モデルが、海外でも通用するとは限らない
日本にいたころ、私が仕事をつくるうえで重視していたのは、すでに成功しているビジネスを見つけ、その仕組みを学び、自分で再現することだった。
まったく新しいことをゼロから考えるよりも、すでに顧客がいて、お金が動いているビジネスを参考にするほうが、成功する可能性を判断しやすい。
その方法で、私はそれなりの生活を手に入れ、多少の贅沢もできるようになった。
だからこそ、フィリピンに来た当初は、日本でうまくいった方法をこちらでも実践できると考えていた。
日本より発展の途中にある国なら、日本で成り立っている商品やサービスに、むしろ大きな可能性があるのではないか。
そう考えていたのである。
しかし、実際に事業を始めてみると、商品やサービスそのものだけではなく、それを支えている環境が違うことに気づかされた。
取引の条件、品質の管理、人との関係、地域の事情、仕事に対する考え方。日本では特に意識しなくても成り立っていたことが、別の環境では事業を左右する問題になることがある。
日本で成功した方法が間違っているわけではない。
ただ、その方法がどのような条件の上に成り立っていたのかを理解せずに、別の場所へ持ち込んでも、同じ結果になるとは限らない。
海外で仕事をつくるということは、単に働く場所を変えることではない。自分が身につけてきた仕事のやり方を、新しい環境に合わせて見直すことでもあるのだと思う。
2.仕事をつくるには、いくつもの力が必要になる
事業を始めるとき、最初に考えるのは商品やサービスかもしれない。
自分が何を提供できるのか。どのような商品を売るのか。どんな仕事なら収入につながるのか。
もちろん、それは出発点として大切だ。
しかし、商品やサービスを用意できたからといって、事業が成り立つわけではない。
それを必要とする顧客がいるのか。顧客はなぜ自分を選ぶのか。価格は適切なのか。提供するために必要な費用はいくらなのか。
さらに、実際に仕事を続けていくには、資金の管理、人の採用や教育、取引先との関係、日々の運営なども必要になる。
事業は、一つの能力だけで成り立つものではない。
自分が得意なことを見つけるだけでなく、それを誰かが必要としている形に変え、継続して提供できる仕組みをつくる必要がある。
小さな事業であっても、考えるべきことは少なくない。
ただし、最初からすべてを完璧に整える必要もないと思う。
大切なのは、自分に何ができて、何が不足しているのかを理解することだ。そして、必要な部分を少しずつ補いながら、仕事の形をつくっていくことである。
顧客が何に価値を感じ、なぜお金を払うのかについては、「自分ができることは、誰かがお金を払ってでも必要とすることなのか」でも、実際の経験をもとに考えている。
3.売上をつくることと、事業を続けることは違う
事業を始めると、売上をつくることに意識が向きやすい。
商品が売れる。仕事の依頼が来る。顧客が増える。
こうした結果が出れば、事業がうまくいっているように感じる。
しかし、売上があることと、事業として安定していることは同じではない。
仕入れや人件費、家賃、光熱費、輸送費など、仕事を続けるためにはさまざまな費用がかかる。
売上が増えても、支出がそれ以上に増えていれば、お金は残らない。
また、帳簿上は利益が出ていても、入金と支払いのタイミングが合わなければ、資金が不足することもある。
小さな事業では、こうした資金の動きが経営に大きく影響する。
私自身も、事業を経験する中で、商品をつくることや売ることだけを考えていては、仕事を続けられないことを学んだ。
事業をつくるということは、売上を生み出すことだけではない。
必要な費用を把握し、利益を残し、資金を回しながら、継続できる形にしていくことでもある。
売上があってもお金が残らない理由や、資金繰りについては、「売上があってもお金が残らない」で、もう少し具体的に取り上げている。
4.人に任せることと、自分で判断すること
一人で始めた仕事でも、事業を続けていけば、誰かの力を借りる場面が出てくる。
仕事を手伝ってもらう。スタッフを雇う。取引先や協力者と一緒に仕事を進める。
自分一人でできることには限界があるため、人に任せることは事業を広げるうえで必要になる。
しかし、人に任せればすべてがうまくいくわけではない。
何を任せるのか。どこまで責任を持ってもらうのか。どのように仕事の進み具合を確認するのか。
こうしたことを曖昧にしたままでは、かえって問題が増えることもある。
また、仕事上の関係と個人的な人間関係を、どのように区別するのかも考えなければならない。
私自身、フィリピンで事業を運営する中で、人との関係や職場の管理について、十分に考えられていなかったことを振り返る機会があった。
人を信頼することは大切だ。しかし、信頼することと、必要な管理や確認をしないことは違う。
相手を尊重しながら、仕事として必要なルールや責任を明確にする。そのバランスが、事業を続けるためには必要なのだと思う。
人に任せる仕事と自分で続ける仕事の分け方については、「人に任せる仕事と自分で続ける仕事」でも考えている。
5.自分一人では見えないものがある
フィリピンで事業を始めたころ、私のすぐそばには、現地の社会や文化を私よりよく知っている妻がいた。
私には見えていなかった問題やリスクについて、彼女は事前に注意を促してくれていた。
しかし、当時の私は、日本で仕事をしてきた経験や、自分なりの成功パターンに自信を持っていた。そのため、彼女の言葉を十分に受け止めることができなかった。
結果として、事業は深刻な問題に直面し、最終的には撤退することになった。
振り返れば、自分の経験だけで判断しようとしていたのだと思う。
自分が知っていることを基準に考え、自分には見えていないことがあるという可能性を、十分に考えていなかった。
しかし、どれだけ経験を積んでいても、一人の人間がすべてを理解することはできない。
自分とは違う環境で生きてきた人には、自分が気づかないことが見えている場合がある。
それは、現地の文化を知る人かもしれない。業界の経験者かもしれない。実務に詳しい協力者かもしれない。
大切なのは、相手に判断を丸投げすることではない。自分で考え、責任を持ちながら、自分とは異なる視点を判断材料として取り入れることだ。
事業を続けるためには、自分の力を信じることと同じくらい、自分には足りないものがあると認めることも必要なのだと思う。
6.エンジンだけでは、荒野を走れない
ここまでの経験を振り返ると、新しい挑戦は自動車を走らせることに似ていると思う。
挑戦を始めるためには、大きなエンジンがいる。
やってみたい。成功したい。自分の力で仕事をつくりたい。
そうした情熱が、人を前に進ませる。
だが、エンジンが大きければ、どんな道でも走れるわけではない。
これまで走ってきたアスファルトの道と、初めて走る土地の道は違う。ぬかるんだ道、岩だらけの悪路、砂漠のような荒野。それぞれに必要な運転技術がある。
ハンドルを切るタイミング、ブレーキを踏む判断、車の状態を見極める力。環境に合わせて走り方を変えなければ、どれほど強力なエンジンを積んでいても、車を大破させてしまう。
私が日本で身につけていたのは、主に、うまくいっている事業を見つけ、仕組みを学び、自分で実行する力だった。
それは、私にとって大切なエンジンだった。
しかし、異なる文化や商習慣の中で事業を営むための操縦技術は、十分に身についていなかった。
環境を理解すること。必要な条件を確認すること。人との関係を考えること。自分には見えていない問題があると認めること。そして、危険を察知したときには、前進するだけでなく、止まる判断をすること。
こうした力は、知識を読んだだけですぐに使いこなせるものではない。
経験を重ね、間違いを振り返り、自分の考え方を修正することで、少しずつ身につけていくものだと思う。
7.小さく始め、現実から学ぶ
新しい仕事を始めるとき、準備は必要だ。
資金や契約、安全に関わることなど、事前に確認しておくべき問題はある。
しかし、すべてを理解し、不安をなくしてから始めようとすれば、いつまでも動き出せないかもしれない。
実際にやってみなければ分からないこともある。顧客の反応や、仕事の進め方、現場で起きる問題などは、動いて初めて見えてくることも多い。
だからこそ、最初から大きな投資をするのではなく、取り返しのつく範囲で小さく始めてみることが大切だと思う。
実際に試し、結果を確認する。うまくいかなければ、何が原因だったのかを考え、やり方を変える。
場合によっては、続けることをやめる判断も必要になる。
挑戦することは、最初に決めた方法を最後まで押し通すことではない。
現実から返ってきた結果を受け止め、必要に応じて方向を変えながら進んでいくことでもある。
準備と行動は、どちらか一方を選ぶものではない。
準備して動き、動いた結果から学び、また準備して次に進む。
その繰り返しの中で、自分なりの仕事のつくり方が見えてくるのだと思う。
小さなビジネスをどこまでお金をかけずに始められるのかについては、「小さなビジネスは、どこまでお金をかけずに始められるのか」で具体的に取り上げている。
8.小さな仕事をつくるための9つのテーマ
ここまで、私自身のフィリピンでの事業経験をもとに、海外で仕事をつくり、続けていくために必要だと感じていることを書いてきた。
このカテゴリーでは、こうした考え方をさらに具体的なテーマに分けて掘り下げていく。

1.海外で仕事をつくろうと思ったとき、最初に考えるべきことは何か
海外で仕事を始めることは、単に場所を変えることではない。これまでの経験がどこまで通用するのか、何を確認してから動くべきなのかを考える。
2.自分ができることは、誰かがお金を払ってでも必要とすることなのか
自分が得意なことと、顧客がお金を払ってでも必要とすることは同じとは限らない。自分の能力と市場の需要について考える。
3.小さなビジネスは、どこまでお金をかけずに始められるのか
すでに持っているものを活用し、販売する場所や提供方法を変えながら、市場の反応を試す。大きな投資をする前に、商売の可能性を探り、変化に対応していく方法について考える。
4.仕事の依頼はなぜ来るのか|顧客がサービスを選ぶ理由を考える
顧客は、なぜ数ある選択肢の中から自分を選ぶのか。依頼が生まれる理由と、信頼される仕事のつくり方を考える。
5.売上があってもお金が残らない|フィリピンの小さな商売から考える利益と資金繰り
売上と利益は違う。事業を続けるために必要な費用や資金の流れについて、実際の商売を通じて考える。
6.価格はどう決めるのか|安さだけに頼らない仕事のつくり方
価格を安くすれば顧客が増えるとは限らない。提供する価値と費用のバランスを考え、適切な価格を決める方法を考える。
7.人に任せる仕事と自分で続ける仕事|フィリピンで小さな事業を運営して学んだこと
自分一人でできることには限界がある。人に任せる仕事と、自分で責任を持つ仕事の分け方について考える。
8.うまくいかない仕事をどう見直すか|日本の正しさが通用しない場所で学んだこと
思ったように進まない仕事を、どのように見直すのか。自分の考え方や仕事の進め方を修正することについて考える。
9.フィリピンで事業を始める前に知っておきたい外的リスク|立地・行政・名義の落とし穴
事業の内容だけではなく、立地や行政手続き、名義など、外部環境によって生じるリスクについて考える。
おわりに:挑戦することと、現実を受け入れること
「足るを知る」という言葉がある。
一般には、今あるものに満足し、必要以上の欲を持たないこととして理解されることが多い。
しかし、私自身の経験から考えると、もう一つの意味もあるのではないかと思う。
それは、自分一人ですべてを成し遂げようとしないこと。自分にないものがあると知り、それを持つ人の力を借りること。そして、自分の判断が間違っている可能性を認めることだ。
挑戦する情熱を失う必要はない。エンジンを小さくする必要もない。
ただ、エンジンだけで、どんな道でも走り切れると思わないことだ。
日本でうまくいった方法が、フィリピンでも同じように通用するとは限らない。今日の成功モデルが、明日も有効だとは限らない。自分が正しいと思う判断が、別の環境では危険な判断になることもある。
だからこそ、現実を確かめる。自分にない視点を持つ人の話を聞く。必要なら立ち止まる。ときには撤退し、やり方を変える。
私にとって、フィリピンでの事業経験は、金銭的には大きな失敗だった。
しかし、その経験は、自分の力だけでは見えないものがあることを教えてくれた。そして、仕事をつくることは、自分一人の力を証明するためだけのものではないということにも気づかせてくれた。
小さく始め、現実から学び、自分にないものを持つ人と協力しながら、仕事をつくっていく。
それも、一つの働き方なのだと思う。
お問い合わせ↓
“`

