フィリピンで事業を始める前に知っておきたい外的リスク|立地・行政・名義の落とし穴

フィリピンの街並みを背景に、事業を始める前に確認すべき外的リスクについて考える経営者の姿。 仕事と小さなビジネス

はじめに:海外での事業は、自分の努力だけでは決まらない

海外で事業を始めるとき、商品やサービスの質、価格設定、スタッフの管理など、自分で工夫できることに意識が向きやすくなります。

もちろん、それらは事業を続けるうえで大切な要素です。

しかし、十数年にわたってフィリピンで生活し、仕事をしてきた私が実感しているのは、自分の努力だけでは解決できない外部の条件も、事業の成否を大きく左右するということです。

どこに出店するのか。そもそも、その場所で営業できるのか。行政との間で予想外の問題が起きないか。外国人として、誰の名義で、どのような法的立場で事業に関わるのか。

事業計画や商品の競争力を考えることは大切です。しかし、フィリピンで事業を始める場合には、その前提として確認しておかなければならないことがあります。

今回は、私自身がフィリピンで事業に取り組む中で経験してきた、立地、出店条件、行政、名義などの外的リスクについて書いてみたいと思います。

海外で働くことや事業を始める前に考えておきたい点については、海外で仕事を始める前に考えておきたいことでも取り上げています。

1. 飲食店の売上を左右する、立地と周辺環境

飲食店を運営するうえで、私が特に重要だと感じてきたのは立地です。

日本では、おいしい料理を出す店や評判の良い店であれば、多少遠くてもわざわざ足を運んでくれるお客さんがいます。口コミや評判を頼りに、目的の店を訪れることも珍しくありません。

しかし、私がフィリピンで商売をしてきた経験では、少なくとも身近な飲食市場において、商品の評判だけでは説明できないほど、場所の影響が大きいと感じています。

近くにある。行きやすい。人が集まる場所にある。こうした条件が、店を選ぶうえで重要になっているように見えます。

もちろん、フィリピンでも遠くから評判の店を訪れる人はいますし、顧客の行動は一様ではありません。それでも、日常的に利用する飲食店では、わざわざ遠くまで行く理由がなければ、近くて便利な店が選ばれやすいと感じます。

つまり、料理をおいしくすることと同じくらい、お客さんが来やすい場所に店を出せるかどうかが重要になります。

もう一つ、私が現地で感じているのは、空調の効いた閉鎖的な室内よりも、開放的な屋外の空間が好まれる場面があることです。

屋外の飲食スペースやマーケットには、人の動きが見え、活気があり、気軽に立ち寄れる雰囲気があります。そうした環境そのものが、来店する理由の一つになっている可能性があります。

これは、すべてのフィリピン人が屋外を好むという意味ではありません。私が実際に見てきた場所や商売の中で感じてきた傾向です。

いずれにしても、飲食店では料理の味だけを追求していればよいわけではありません。お客さんがどこに集まり、どのような場所で食事をしたいと考えているのか。立地と周辺環境を含めて商売を考える必要があります。

2. 集客できる場所でも、出店できるとは限らない

では、集客力のある場所を見つければ、それで安心なのでしょうか。

実際には、そうとも限りません。

人気のあるマーケットや、複数の店舗が集まる商業施設などでは、出店場所を確保できるかどうかが別の問題になります。

施設の管理者や大家が、どのような店を入れるかを決めている場合があります。同じような商品を販売する店がすでに入っているという理由で、新しい出店を断られることもあります。

私自身、2018年にマニラのマーケットへ出店しようとした際、出店を断られた経験があります。

自分では商品や販売方法を考え、出店する価値があると思っていても、場所を提供する側が受け入れなければ、商売を始めることすらできません。

これは、商品やサービスの良し悪しとは別の問題です。

日本でも同様のことはあるでしょう。しかし、海外で事業を始めるときには、土地や施設を管理する人との関係、出店条件、同業者の有無など、事前に確認すべきことがあります。

そして、出店できた後も、同じ場所で長く営業できるとは限りません。

場所を借りる場合は、契約期間や更新条件、賃料の変更、営業上の制限などを確認しておく必要があります。口頭での説明だけを頼りにせず、重要な条件は書面で確認することが大切です。

立地は、単に人通りが多い場所を探すことではありません。実際に営業でき、継続して利用できる場所を確保することまで含めて考えなければならないのです。

出店場所だけでなく、初期費用や運転資金を含めた事業の組み立て方については、海外で小さなビジネスを始めるための考え方も参考になります。

3. 売上が伸びた後に考えておきたい、競争と変化

もう一つ、現地で商売をしていて感じるのは、売上が伸びてきたときに起こる変化です。

自分の店がうまくいき始めると、その商品や販売方法を参考にする人が現れることがあります。場合によっては、似たような商品を扱う店が近くに出てくることもあります。

もちろん、これはフィリピンだけの話ではありません。商売がうまくいけば、ほかの事業者が同じ市場に参入するのは自然なことでもあります。

ただ、小さな事業では、競争相手が一つ増えるだけでも影響が大きい場合があります。

特に、商品や販売方法を簡単に模倣できる場合、売上が伸びた理由を理解しないまま、似たような商品を並べられることもあります。

そのとき、価格を下げて対抗することだけが解決策とは限りません。

商品の品質、提供する速さ、接客、メニュー構成、販売場所など、自分の店が選ばれる理由を考え続ける必要があります。

同時に、一つの場所や一つの商品だけに依存していると、周辺環境が変わったときに影響を受けやすくなります。

売上が上がっているときこそ、その状態が何によって成り立っているのかを確認し、次の変化に備えておくことが大切なのだと思います。

フィリピンの都市部を背景に、事業について考える経営者の姿。下部には屋外マーケット、行政施設、事業登録に関する書類をイメージした風景が並び、フィリピンで事業を始める際の立地・行政手続き・名義に関する外的リスクを表現した画像。

4. マニラで経験した、行政手続きにまつわる予想外の負担

立地や競争相手の問題とは別に、私がマニラで事業をしていたころに経験したのが、行政との間で起きた問題でした。

あるとき、市役所から抜き打ちの調査が入り、ごみの分別に関する指摘を受け、ペナルティーを科されたことがあります。

当時の私の認識では、周辺地域の一般家庭で、日本のように生活ごみを細かく分別する習慣は広く見られませんでした。一方で、飲食店である私の店は分別について指摘を受け、金銭的な負担が発生しました。

交渉の結果、金額は下がったものの、事業を運営する側としては大きな負担でした。

さらに気になったのは、隣近所の店には同じような指摘がなかったことです。

後になって、近所のフィリピン人オーナーから、「日本人だからではないか」という趣旨の話を聞きました。

ただし、それが行政側の本当の意図だったのか、当時の状況だけで断定することはできません。私自身も、担当者の意図を客観的に確認できたわけではありません。

それでも、外国人として事業を行う中で、納得しにくい指摘や予想していなかった負担が生じることがあるという経験は、強く印象に残っています。

こうした問題に直面したとき、感情的に反発するだけでは解決しないこともあります。指摘の根拠を確認し、適用される規則や必要な手続きを調べ、必要なら交渉することが求められます。

フィリピンでは、地方自治体による事業許可など、営業に必要な手続きがあります。具体的な要件は事業内容や所在地によって異なるため、開業前に関係機関へ確認しておくことが重要です。

一般的な事業許可の手続きについては、フィリピン投資委員会(BOI)の案内も参考になります。

フィリピン投資委員会(BOI)|事業許可の案内

また、納得できない指摘を受けた場合には、指摘内容、根拠となる規則、支払いの内訳などを記録し、正式な領収書や書面を受け取ることも重要になります。

一度問題が起きてから対応するより、日頃から許可証や関連書類を整理し、必要な規則を把握しておくほうが、余計な負担を減らしやすくなります。

5. 外国人が事業に関わるとき、名義と法的な立場を確認する

フィリピンで事業を始める日本人にとって、特に注意が必要なのが、事業の名義と法的な立場です。

私はこれまで、フィリピンで事業に挑戦したものの、さまざまな問題に直面して日本へ帰国していく日本人を何人も見てきました。

その中で、事業の名義や現地パートナーとの関係が問題になるケースもありました。

外国人が事業を行う場合、事業の種類によって、認められる外国資本の割合や必要な登録、許可などが異なります。

そのため、外国人名義ではできない事業があるという話を聞いて、現地の知人や友人の名義を借りればよいと考えるのは危険です。

名義を借りて事業を始めたとしても、実際の所有関係や資金の出所、経営権、利益の分配などが曖昧なままであれば、事業が軌道に乗った後に深刻な対立が起きる可能性があります。

最初は信頼関係があったとしても、事業が成長し、お金が動くようになれば、利害関係は変わることがあります。

契約書を作成していても、契約の内容や有効性、事業の登録状況、実際の資金関係などによって、問題の解決は簡単ではありません。

裁判になれば必ず現地の人が有利になる、と一律に言うことはできませんが、外国人が現地で権利を主張するには、時間や費用、言語面などの負担が生じる可能性があります。

こうした問題を避けるためには、事業を始める前に、次の点を明確にしておく必要があります。

  • 誰が法的な所有者なのか
  • 誰が経営判断を行うのか
  • 誰が資金を出すのか
  • 利益や損失をどのように分担するのか
  • 事業を終了するとき、資産や権利をどう扱うのか

そして、名義だけを借りることで法的な制限を回避しようとするのではなく、事業の内容に合った適法な形態を選ぶことが重要です。

外国人の事業参加に関する制度は、業種や資本構成などによって異なり、法改正によって変更されることもあります。

現在の制度については、フィリピン投資委員会(BOI)などの公的機関の案内を確認したうえで、実際に事業を始める前に、現地の弁護士や専門家へ具体的な条件を確認する必要があります。

外国投資に関する案内- BOI:Doing Business in the Philippines 2026

6. 私自身の立場と、他の人に当てはめられない事情

私の場合は、フィリピン人である妻と事業に取り組める環境があり、結婚に基づくビザも取得しています。そのため、私自身の事情としては、事業に関わるうえで比較的進めやすい面があります。

しかし、これは私自身の事情であって、誰にでも当てはまるわけではありません。

妻と事業に取り組めることと、すべての事業に外国人が自由に参加できることは別の問題です。また、結婚に基づくビザがあるからといって、業種ごとの外国資本規制や登録要件がなくなるわけでもありません。事業の所有者、経営への関与、必要な登録や許可は、それぞれ分けて確認する必要があります。

だからこそ、これからフィリピンで事業を始めようとする人には、商品や立地を考える前に、自分がどのような法的立場で事業に関わるのかを確認してほしいと思います。

名義や契約関係を曖昧にしたまま事業を始め、売上が伸びてから問題が発生すると、事業そのものを失う危険もあります。

出発点で時間をかけて確認することは、遠回りに見えても、後から大きな損失を避けるための重要な準備になります。

7. 開業前に、事業の外側にあるリスクも確認する

事業を成功させるためには、商品を工夫し、価格を考え、お客さんのニーズを理解し、スタッフと協力して仕事を進める必要があります。

しかし、それだけでは十分ではありません。

出店したい場所を確保できるか。施設の管理者とどのような契約を結ぶのか。行政上の手続きや規則に問題はないか。外国人として適法に事業へ参加できるのか。

こうした問題は、どれだけ良い商品をつくっても、どれだけ真面目に働いても、自動的に解決するものではありません。

そして、事業が軌道に乗ってからでは、修正するための費用や負担が大きくなることもあります。

だから、海外で事業を始めるときには、売上を伸ばす方法だけでなく、事業を始められなくなる原因や、継続できなくなる原因も考えておく必要があります。

商売は、自分の努力だけで成り立つものではありません。場所、契約、行政、法律、人間関係といった外部環境の中で成り立っています。

日本での経験を生かすことは大切です。しかし、日本で当たり前だと思っていた条件が、フィリピンでも当たり前だとは限りません。

事業を始める前に、どのようなリスクがあるのかを知る。自分で確認できることは確認し、必要なら専門家の力を借りる。

それもまた、フィリピンで小さなビジネスを始め、長く続けていくために欠かせない準備なのだと思います。

なお、この記事で触れた行政手続きや外国人の事業参加に関する内容は、私自身の経験と一般的な問題意識をまとめたものです。実際の要件は事業形態や地域、法改正などによって異なるため、開業時には必ず最新の公的情報と専門家の助言を確認してください。

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