はじめに:売上があるのに、手元にお金が残らないのはなぜか
商売を始めるとき、多くの人がまず気にするのは「どれだけ売れるか」ではないでしょうか。
商品が売れれば、お金が入ってきます。お客さんが増えれば、商売もうまくいっているように見えます。
しかし、売上があることと、利益が残ることは同じではありません。
さらに、帳簿上の利益と、翌日の仕入れや支払いに使える現金が手元にあることも別の問題です。
フィリピンのドゥマゲッティで暮らし、現地の小さな商売を見ていると、この違いについて考えさせられる場面があります。
毎日商品を販売していても、仕入れや返済に追われ、手元にお金が残りにくい。そんな状況が生まれる背景には、売上だけでは見えないお金の流れがあります。
今回は、身近な商売の観察を通して、売上・利益・資金繰りの違いを考えてみたいと思います。
1. 売上があっても、利益が残っているとは限らない
街を歩けば、屋台や小さな食堂、野菜や肉を売る露店など、さまざまな商売を目にします。
こうした商売を見ていて私が気になるのは、売上だけではありません。仕入れや人件費、家賃などを差し引いた後に、いくら手元に残るのかという点です。
私の観察では、小規模な商売の中には、商品を売って現金が入ることを重視する一方で、経費を細かく把握するところまでは十分にできていないように見えるケースもあります。
もちろん、すべての商売人がそうだという話ではありません。外から見ているだけでは、実際の帳簿や経営状況までは分からないからです。
たとえば、食べ物を販売する小さな店で、1日に1,000ペソの売上があったとします。
材料費が500ペソなら、材料費を差し引いた残りは500ペソです。
しかし、これをそのまま500ペソの利益と考えるのは早すぎます。
そこから人件費、家賃、光熱費、交通費、売れ残りや廃棄による損失などが発生する可能性があります。設備や道具の修理費も、長い目で見れば必要になります。
売上から材料費を差し引いた金額は、一般に「粗利益」と呼ばれます。そこからさらに必要な経費を差し引き、最終的にどれだけ利益が残るのかを考えなければなりません。
また、販売価格を決めるときにも、材料費だけでなく、こうした経費を含めて考える必要があります。価格設定の考え方については、小さなビジネスの価格設定でも取り上げています。
小さな商売では、毎日の売上が目に見えるだけに、経費を差し引いた本当の利益を見失いやすいのではないでしょうか。
2. 売上・利益・資金繰りは、それぞれ別のもの
商売のお金を考えるとき、少なくとも次の3つを区別する必要があります。
- 売上: 商品やサービスを販売して得た金額
- 利益: 売上から仕入れや人件費などの費用を差し引いた結果
- 資金繰り: 仕入れや支払いに必要な現金を、必要なタイミングで用意できるかどうか
この3つは関係していますが、同じものではありません。
帳簿上は利益が出ていても、売掛金の回収が遅れていれば、手元に現金がないことがあります。
逆に、借入金を受け取れば手元の現金は増えますが、それ自体が利益になるわけではありません。借りたお金は、いずれ返済しなければならないからです。
この違いは、大きな会社だけに必要な知識ではありません。
毎朝商品を仕入れ、その日の売上から生活費や翌日の仕入れ資金を確保する小さな商売ほど、資金繰りが重要になります。
売上があっても、翌日の仕入れに必要な現金がなければ、商売を続けることが難しくなるからです。
3. 毎朝の仕入れ資金を借り、翌朝に返す商売
ドゥマゲッティ周辺で小さな商売を観察していると、野菜や肉などを仕入れて販売する人たちにとって、毎朝の仕入れ資金が重要な問題になっていることが分かります。
たとえば、朝の仕入れに必要な1,000ペソを手元に持っていない場合、貸し手からお金を借りて商品を仕入れ、その日の販売で得た現金から返済する。そして翌朝、また仕入れ資金を借りる。
私が見聞きした例では、1,000ペソを借りて仕入れを行い、翌朝に1,200ペソを返すという形がありました。
この場合、借入額と翌朝の返済額の差は200ペソです。借入額に対して20%に相当する金額になります。
ただし、この差額がそのまま契約上の利息なのか、手数料などが含まれているのかは、実際の契約内容を確認しなければ分かりません。
分割で返済できる場合もあるようですが、返済期間が延びることで負担がさらに増えるケースもあると聞いています。
ここで考えたいのは、借りる側が毎朝、どれだけの利益を確保できているかという問題です。
仮に、1,000ペソを借りて仕入れを行い、商品を販売して1,200ペソ以上の現金を得たとしても、それだけでは商売が成り立っているとは言い切れません。
仕入れ原価以外にも費用がかかります。さらに、翌朝の返済額を差し引けば、次の仕入れに使える資金が十分に残らない可能性もあります。
毎日商品が売れていても、借入金の返済負担が大きければ、働き続けているのに手元のお金がなかなか増えないという状態になりかねません。
これは、単純に売上を増やすだけでは解決できない問題です。

4. 担保を使った借入にも注意が必要
現地では、車や土地などを担保にして資金を貸し付ける「レンディング」と呼ばれる貸付業者や金融事業者も見かけます。
私が把握している範囲では、月利がおよそ5%という例もあります。
ただし、これは私が見聞きした範囲の情報であり、フィリピン全体の標準的な金利を示すものではありません。実際の条件は、貸し手や契約、手数料、担保の内容などによって異なる可能性があります。
また、毎日の仕入れ資金を借りる露店商と、車や土地を担保にしてまとまった資金を借りる人とでは、借入の目的も返済の仕組みも異なります。
それぞれの事情は違いますが、共通して考えるべきなのは、借りる側が返済条件を理解し、返済後にも生活や事業を続けられるだけの資金を確保できるかどうかです。
お金を借りられること自体は、仕入れや事業継続の助けになる場合があります。
しかし、借入によって目の前の問題を解決できても、返済の負担が大きすぎれば、長期的には状況をさらに厳しくすることもあります。
借りられるかどうかだけでなく、借りた後にどう返し、どれだけ手元に残せるかまで考える必要があります。
5. 小さな商売では、利益と現金の両方を記録する
小さな商売では、毎日の売上と仕入れを記録するだけでも、経営の見え方が変わります。
たとえば、次のような項目を記録してみることです。
- その日の売上はいくらだったか
- 商品の仕入れにいくら使ったか
- 人件費や交通費など、ほかの経費はいくらかかったか
- 借入金の返済はいくらだったか
- 翌日の仕入れに使える現金はいくら残ったか
最初から難しい会計ソフトを導入する必要はありません。
紙のノートでも、毎日記録を続ければ、売上が増えているのに現金が残らない原因を見つける手がかりになります。
特に、仕入れた商品をその日のうちに売り切るような商売では、翌日の仕入れ資金を確保できるかどうかが、営業を続けられるかどうかに直結します。
利益が出ているかを確認すること。そして、明日の商売を始めるための現金があるかを確認すること。
この2つを分けて考える必要があります。
6. 仕入れ資金の課題を、別の仕組みで解決できないか
こうした状況を見ていると、私は小さな商売人の仕入れ資金を、もう少し負担の少ない形で支える仕組みができないだろうかと考えることがあります。
たとえば、野菜や肉を仕入れるための資金を必要としている人に対して、返済条件や手数料を明確にしたうえで、事業を続けやすい資金の仕組みを提供できないか、という発想です。
ただし、これは現時点で実現している事業ではなく、今後検討してみたいアイデアの一つにすぎません。
実際に取り組むのであれば、借り手の売上や利益、返済能力をどう確認するのか。返済が滞った場合にどう対応するのか。貸し倒れのリスクをどう抑えるのか。
こうした問題を一つずつ考えなければなりません。
さらに、フィリピンで貸付事業を行うには、事業形態に応じた登録やライセンスの要否、適用される金利や手数料の規制、契約上の義務などを、現地の専門家や関係機関に確認する必要があります。海外で事業を始める際には、現地の制度や事業上のリスクを事前に確認することも欠かせません。関連する考え方は、フィリピンで小さなビジネスを行う際のリスクでも紹介しています。
善意や商売上のアイデアだけで始められるものではありません。
借りる側を支えるつもりでも、返済できない人を増やしたり、事業を継続できないほどの負担を生んだりすれば、本来の目的から離れてしまいます。
だからこそ、資金を貸す側の利益だけでなく、借りる側が返済後にどれだけ資金を残せるのかという視点が欠かせないと思います。
おわりに:売上を追うだけでなく、お金の流れを見る
小さな商売では、毎日商品が売れることが大切です。
しかし、売れたという事実だけで、商売がうまくいっているとは判断できません。
売上から費用を差し引いた後に、利益が残っているか。
そして、利益が出ていたとしても、翌日の仕入れや必要な支払いに使える現金があるか。
この2つを確かめることで、商売の実態はより明確になります。
ドゥマゲッティで目にする小さな商売から、私は改めて、お金を稼ぐことと、お金を残すことは別の課題なのだと考えさせられます。
売上があることは、商売を続けるための第一歩にすぎません。
利益を確保し、次の仕入れに必要な現金を残せて初めて、商売を持続させる土台ができます。
小さなビジネスを考えるときには、「今日はどれだけ売れたか」だけでなく、「すべての支払いを終えた後、明日のためにいくら残せるか」という問いも忘れずにいたいと思います。
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