自分ができることは、誰かがお金を払ってでも必要とすることなのか

フィリピンの屋外マーケットで、ラーメンの販売を考えながら顧客の反応について思案する経営者の姿。 仕事と小さなビジネス

はじめに:自分にできることは、本当に仕事になるのか

自分には、できることがある。

これまで仕事で身につけてきた技術がある。人より詳しい分野がある。経験してきたことがある。あるいは、自分なりに考えた商品やサービスのアイデアがある。

それを生かして、新しい仕事をつくれないだろうか。

新しい事業を考えるとき、多くの人は自分の能力や経験から出発します。自分が得意なこと、好きなこと、やってみたいこと。それらを仕事にできれば理想的でしょう。

しかし、ここで一つ考えておきたいことがあります。

自分ができることと、誰かがお金を払ってでも必要としていることは、同じではありません。

どれほど優れた技術があっても、それを必要とする人がいなければ、仕事として成立しにくいものです。自分では価値があると思っていても、相手にとっては必要のないものかもしれません。

反対に、自分では特別なことだと思っていなかった経験や能力が、誰かの困りごとを解決することもあります。

仕事をつくるためには、自分に何ができるかを考えるだけでなく、それが誰の、どのような問題を解決するのかを考える必要があります。

私は、顧客が何を求めているのかを理解することについて、今も学び続けています。自分なりに考え、実際に商売をしてきましたが、まだ十分な答えが出ているわけではありません。

それでも、過去の経験から一つ、分かりやすい教訓を得ています。

それは、相手が喜んでくれたことと、相手がお金を払ってくれることは、必ずしも同じではないということです。

1. 自分の能力や経験を出発点にする

仕事をつくるとき、自分の能力や経験を出発点にすること自体は間違いではありません。

何も知らない分野で始めるより、経験のある分野で始めるほうが、必要な作業や難しさを理解しやすくなります。自分が得意なことなら、品質を高めたり、効率よく作業したりできる可能性もあります。

私自身、日本では、すでに成功しているビジネスを見つけ、その仕組みを学んで独立するという方法を取ってきました。

自分ができることを増やし、それを必要とする人に提供する。仕事をつくるうえで、これは一つの有効な方法です。

ただし、自分に能力があることと、その能力を必要とする顧客がいることは別の問題です。

さらに、顧客が必要としていることと、実際にお金を払って利用することも同じではありません。

考えておきたいのは、次の3つです。

  • 自分ができることを、誰かが必要としているか
  • その人は、なぜそれを必要としているのか
  • その人は、本当にお金を払って利用するのか

この3つは似ているようで、それぞれ違う問いです。

自分の能力を生かすことは、仕事づくりの出発点になります。しかし、それだけで事業が成立するわけではありません。顧客の必要性と、実際の購買行動まで確かめる必要があります。

小さなビジネスを始めるときの考え方については、海外で小さなビジネスを始めるときに考えたいことでも触れています。

2. 無料で「おいしい」と言われても、商売がうまくいくとは限らない

顧客が何を求めているのかを理解することは、私自身、今も学び続けている課題です。

頭で考えるだけでは分かりません。実際に商売をして、相手の反応を見て、初めて気づくことがあります。

飲食店を始めたばかりのころ、私は料理の味を知ってもらうために、できるだけ多くの人に試食してもらおうと考えました。

スタッフや関係者だけでなく、近隣の人たちまで呼び、料理を味見してもらいました。

すると、予想以上に多くの人が集まりました。皆、遠慮なく試食し、「おいしい」と親指を立てて喜んでくれました。

その反応を見て、私は手応えを感じました。

これだけ喜んでもらえるなら、きっとお客さんも来てくれるだろう。

そう考えてソフトオープニングを始めたのですが、実際の客足は期待したほどではありませんでした。

試食のときに喜んでくれた近隣の人たちも、ほとんど来店しませんでした。あれほど好意的な反応を示してくれた人たちの多くが、実際の購入にはつながらなかったのです。

私は、そこで一つの違いに気づきました。

無料で食べて「おいしい」と言うことと、自分のお金を払って食べに来ることは、まったく同じではない。

試食の場では、料理を無料で楽しめます。招待してもらったことへの感謝や、その場を楽しく過ごすための好意的な反応もあるかもしれません。

しかし、お金を払って食事をする段階になると、判断する条件が変わります。

価格はどうか。量は十分か。店まで行く価値があるか。ほかの店と比べてどうか。日常的に利用したいと思うか。

無料の試食で確かめられたのは、料理を食べたときの反応でした。実際に購入するかどうかまでは、確かめられていなかったのです。

当時の私には、その区別が十分にできていませんでした。

フィリピンの屋外マーケットにあるラーメン屋台の風景。自分が提供できる商品と、顧客がお金を払ってでも求める価値について考える小さな飲食ビジネスの現場。

3. BUY 1 TAKE 1で、顧客の反応が変わった

その後、店ではラーメンのボリュームを調整し、BUY 1 TAKE 1、つまり一つ買うともう一つ付いてくる販売方法を試しました。

実質的に、二つの商品を一つ分の価格で提供するような仕組みです。

すると、プロモーションが始まったころ、店の前に行列ができました。

無料の試食ではなく、実際にお客さんに購入してもらうための仕掛けを用意したところ、反応が変わったのです。

この経験から、私は商品そのものの味だけでなく、販売方法や見せ方も重要なのだと学びました。

ただし、行列ができたことだけで、長期的に利益の出る商売になったと判断できるわけではありません。割引によって客が集まっても、原価や人件費などを差し引いて利益が残るかどうかは、別に確かめる必要があります。

それでも、少なくとも、顧客の反応を変えるためには、味を評価してもらうだけでは足りないことが分かりました。

ちなみに、このBUY 1 TAKE 1のアイデアを出したのも妻でした。

私は料理を食べてもらい、おいしいと言ってもらうことに期待していました。一方、妻は、実際にお客さんに購入してもらうための方法を考えていたのです。

振り返ると、ここにも、自分だけでは見えていなかった視点がありました。

商品をつくる側は、商品の品質に意識が向きやすいものです。しかし、顧客が購入を決めるときには、価格や量、購入するきっかけ、ほかの選択肢との比較など、さまざまな要素が関係します。

良い商品をつくることと、その商品が売れる仕組みをつくることは、別々に考える必要があるのです。

4. 好意的な反応と、実際の購買意欲を分けて考える

この経験について考えたとき、私はフィリピンでの人々の反応や、文化的な背景についても考えるようになりました。

私が試食を呼びかけたとき、多くの人が集まり、料理を喜んで食べてくれました。無料で食事を振る舞われることへの抵抗が少なく、好意的な反応を示してくれる人が多かったように感じました。

そこには、食事を振る舞ってくれた人への感謝や、相手の好意に応えることを大切にする人間関係も関係していたのかもしれません。

私は、カトリックを中心とした社会文化との関係も考えたことがあります。ただし、それが今回の反応の原因だったと断定することはできません。フィリピンの人々すべてが同じように行動するわけでもありません。

私が実際に経験したのは、無料の試食で好意的な反応を示してくれた人たちの多くが、店の営業開始後には購入に来なかったということです。

問題は、相手が「おいしい」と言ってくれたことではありません。その言葉を、私が「お金を払ってでも食べに来てくれる」という意味に受け取ってしまったことでした。

相手が喜んでくれたことは、うれしい反応として受け止めればよいでしょう。しかし、その反応を購買意欲の証拠として扱うなら、別の確認が必要です。

顧客の言葉を疑う必要はありません。ただし、言葉だけで判断を終わらせてもいけません。

好意的な反応は、購入の約束ではありません。

商品への評価と、実際にお金を払う意思を分けて確かめることが、商売をつくるうえで重要なのです。

顧客が何に価値を感じ、どのような理由で商品を選ぶのかという視点は、とても大切になります。

顧客が実際にどのような理由で商品やサービスを選ぶのかについては、こちらの記事でも詳しく考えています。顧客がサービスを選ぶ理由もあわせてご覧ください。

5. 顧客が求めているのは、商品そのものだけではない

仕事を考えるとき、提供する商品やサービスそのものに意識が向きやすくなります。

何をつくるか。どんな技術を使うか。どれほど高品質にできるか。どこを他社と差別化するか。

もちろん、それらも重要です。

しかし、顧客の立場から考えると、別の見方ができます。

顧客が本当に求めているのは、商品そのものではなく、それによって得られる結果かもしれません。

たとえば、顧客が文章作成サービスを利用するのは、文章そのものが欲しいからとは限りません。情報を分かりやすく伝えたい、問い合わせを増やしたい、仕事に使う時間を減らしたい、といった目的があるかもしれません。

飲食店であれば、料理の味だけでなく、価格に対する量、食事をする楽しさ、店の場所、利用する手軽さなども選択に影響します。

顧客が求めているのが結果なら、提供する側も「何をつくれるか」だけでなく、「相手のどんな問題を解決できるか」を考える必要があります。

ここで大切なのは、顧客が口にした要望を、そのまま事業の答えにしないことです。

本人が欲しいと言っているものと、本当に解決したい問題が、必ずしも一致するとは限りません。

相手の話を聞き、実際に困っていることを確かめる。自分が考えた解決策が、本当に役に立つのかを検証する。

その積み重ねが、仕事の価値を顧客の視点から見直し、選ばれる商品やサービスへと育てていくことにつながります。

おわりに:自分にできることを、顧客が求める価値につなげる

自分にできることを仕事にする。その考え方は、新しい事業を始めるうえで大切な出発点です。

しかし、自分の能力や経験をそのまま商品にすれば、自然に売れるというわけではありません。

無料で喜んでもらえたとしても、実際に購入してもらえるとは限りません。行列ができたとしても、それだけで利益が出ているとは限りません。

だからこそ、相手の反応を見て終わりにせず、実際に購入してくれるのか、どのような条件なら選んでくれるのか、利用したあとに満足してくれるのかを確かめる必要があります。

私自身、商売を経験するなかで、商品をつくる側の視点だけでは見えないことが多くあると学びました。顧客の立場に立って考え、試し、結果を見ながら改善していく。その繰り返しが欠かせないのだと思います。

自分にできることを、誰かが本当に必要としている価値につなげる。

それが、仕事をつくり、長く続けていくための大切な視点なのだと考えています。

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